ローバー都市建築事務所の設計物件や、弊社代表の野村正樹が執筆するコラムなど、
雑誌や新聞に掲載されている情報のご紹介をいたします。
きょうと空間創生術 [274]
2006年6月9日の第1回の掲載以来、約12年間にわたり隔週連載を続けてきた「きょうと空間創生術」。第274回の連載となる今回を以て、最終稿となる。思えば、さまざまな”きょうと”における空間の執筆を重ねていく中で、単なるデザイン上の延長線にはない、その歴史や背景の奥深さに多くの気づきがあった。
写真は、京都市北区にある「京見峠」からの眺め。若狭国方面から上洛する際、最初に京の街を見下ろすことができた峠として知られており、そこからこの「京見峠」の名がついたという。南北朝時代の軍記物語「太平記」にも「京中を足下に見下」ろせる峠という記述があり、江戸時代に創業したという一軒の茶屋の建物も今なお峠に残されている。
今でも、杉木立の向こう側に、美しい京都の町並みを見ることができ、昔も今も変わらぬ風景を、一望することができる。
ここで、12年前の第1回の掲載記事「伝統と変化」の一文を改めて紹介しておきたい。
「時代を超えて受け継がれた先人の知恵がこの町には息づいている。先人に学ぶことは多い。その時代の人や文化に合わせて、スタイルは常に改良され、それが伝統を継承していく。すなわち伝統とは変化の連続にほかならない。(中略)時の流れに合わせた変化を積み重ねて、次代へ継承し続けるという、大きな使命が伝統にはある。」
時代の変化を積み重ねながら、伝統を受け継ぎ伝える。昔も今も変わらぬ”きょうと”の”かたち”を、この場所から眺めると、変化を重ね、時を経ても変わらない風景もこの京都には存在すると思うのである。