ローバー都市建築事務所の設計物件や、弊社代表の野村正樹が執筆するコラムなど、
雑誌や新聞に掲載されている情報のご紹介をいたします。
きょうと空間創生術 [260]
先日、京丹後市久美浜町にある「和久傳(わくでん)の森」を訪れる機会に恵まれた。日本料理を通して、食と文化の素晴らしさを伝え続ける料亭「和久傳」。その創業は1870(明治3)年、丹後峰山町で和久屋傳左衞門が始めた旅館「和久傳旅館」にさかのぼる。京都・高台寺に店を構えたのは1982(昭和57)年のこと。以来、季節の素材の味を生かした味わいと、その洗練された野趣の持ち味は、多くの人々に愛されている。
発祥地である丹後で、2007年より56種類の木々、約3万本が植樹され「和久傳の森」が日々大切に育てられている。今年6月、新しく「森の中の家 安野光雅館」が開館した=写真。折れ曲がった長い回廊と、周囲の風景に溶け込むような杉板張りのモダンな外観が特徴的なこの美術館は、建築家・安藤忠雄氏の設計による。優しい雰囲気と淡い色調で落ち着きのある水彩画が作風が特徴的な安野光雅氏。2012年には文化功労者に選ばれ、90歳を超えた現在も、積極的に創作活動を続けている。
そんな氏の水彩画の世界を、森と呼応するようにうまく融合させた展示空間は、効果的に自然光をわずかにスリットで取り入れながら、まるで絹織物につつまれたような、繊細かつ柔らかな空間を実現している。
他にも、この和久傳の森の中には、工房やレストラン・畑や果樹園も整備され、四季折々の自然と風景があふれる、豊かな森林となっている。美しい自然に囲まれながら、絵画の持つ優しい雰囲気と建築空間の融合にふれることのできた、夏のひとときであった。