ローバー都市建築事務所の設計物件や、弊社代表の野村正樹が執筆するコラムなど、
雑誌や新聞に掲載されている情報のご紹介をいたします。
きょうと空間創生術 [254]
京都市上京区にある京都本社オフィスが少し手狭になってきたこともあり、長年使い慣れたテナントビルから、同じ西陣にある近所のレトロビルに移転することとなった。以前この「きょうと空間創生術」第247回でも紹介させていただいた、昨秋新しくリニューアルオープンした「385 PLACEE」ビルである。1973(昭和48)年に建築された古い織物会社のビルは、「シェアオフィス+コワーキングスペース」として再生整備され、私たちの設計活動もより積極的に行える環境を整えることができたのである。
築44年というその年月を、肌で感じながら日々の業務を遂行することとなり、その中で、物を大事に使い続けることの意義性を強く感じることとなった。古民家再生や町家再生を通じて、建物における持続可能性を意識しながら以前から設計活動をしてきたのだが、実際にレトロビルで日常を過ごす環境に身をおくと、より一層その思いは強くなり、さまざまなアイデアが新しく生まれてくることになる。
写真は新オフィスの打ち合わせスペース。コンクリートの持つ素材感を大切にしながら、本物の木が持つぬくもりを感じる、落ち着きのある環境を計画している。中央にある大きなテーブルはイチョウの一枚板。イチョウ独特の木目が美しいこの長さ9尺(約3メートル)もあるテーブル板は、事務所設立当初から大切に使い続けている思い出のある一枚板である。今回、新たに表面を研磨することにより、新品同様の輝きを取り戻すことになった。
左側にある白い椅子は、北欧のデザイナー、ユーロ・サーリネンによる「チューリップチェア」。以前は八瀬遊園地で使用されていたのを引き継ぎ、こちらも事務所設立当初から大切に使い続けている。今回の移転を機に、「物を大切に思うこころ」について、より深く考えることとなり、建築設計に生かすことができればと思うのである。