ローバー都市建築事務所の設計物件や、弊社代表の野村正樹が執筆するコラムなど、
雑誌や新聞に掲載されている情報のご紹介をいたします。
きょうと空間創生術 [247]
先日、京都市上京区の西陣に新しくオープンした「385 PLACE」を訪れる機会に恵まれた。1973(昭和48)年に建築された古いオフィスビルを改装し、「シェアオフィス+コワーキングスペース」として再生された、リノベーションの事例である。
地上5階建てのレトロな外観は、経年変化をいい意味で感じる風合いのある風格を醸成している。建造当初より外壁に使用されている多治見焼の窯変タイルは、44年の歳月を経て艶やかにその輝きを増しているようにすら感じられる。
内部空間はビル本体とコンクリートの持つその味わいの深さをうまく再生し、モダンでありながらどこか懐かしさを感じさせる、調和のとれた美しさを形成している=写真。西陣の瓦屋根が続く町並みや北山の山々を眺めることのできるロケーションも、市中心部にはない独特の落ち着きを感じられる居心地の良さを形成している。
「シェアオフィス+コワーキングスペース」というスタイルは、近年広がりを見せつつあるオフィスビルの新しい再生手法であり、従前の単なる貸し事務所とは異なり、地域性・テーマ性といった視点を、新しくビル再生に取り込みながら、独自のマネジメント手法を展開する方法として注目されている。「385 PLACE」においては、上京密着・西陣織といったキーワードを織り込みながら、人と企業のつながり・交流を促進する工夫がなされている。
創業以来、帯の製造拠点として世界に通じる作品を生み出した建物が今回の改装により人々が新しく集い、愛され続ける建物となった。年月を重ねるごとに美しくなる建築。このような建物を創り続けたいと思えた、すてきなひとときであった。