ローバー都市建築事務所の設計物件や、弊社代表の野村正樹が執筆するコラムなど、
雑誌や新聞に掲載されている情報のご紹介をいたします。
きょうと空間創生術 [243]
山紫水明とたたえられる豊かな自然と、1200年の悠久の歴史に育まれてきた、「歴史都市・京都」。そんな京都にふさわしい景観の保全と創造を目指して、京都市が「新景観政策」を施行したのは、今から9年前の2007(平成19)年のことである。以来、数回の条例改正を経て、京都市内においても勾配屋根や軒庇(のきびさし)の意匠をはじめとしてさまざまな工夫がなされた、新景観政策対応の美しいデザインの建築物が建設されてきた。
市内のそれぞれの地域において規制の内容は異なるが、伝統文化の継承と新たな創造との調和を基調とする”京都独自”の現代デザインの形態が開発され、いろいろな試行が重ねられている。
写真は、先日、京都市街地から北に位置する「北山」で設計した1件の個人住宅の外観。近隣には府立植物園や大学などがあり、近年、そのしゃれた街並みと、閑静でスタイリッシュな環境が住宅地として人気を集めている地域でもある。
軒庇を二層に深く設けながら、袖壁と縦長窓で垂直線を意識した外観のデザインを形成。駐車スペースと花壇部分も建物と調和するよう奥行き方向に広がりを持たせ、全体としてエレガントな印象を持たせるよう工夫を行っている。照明計画においても、夜間の街路風情を意識して、暖色の拡散光を基調とした開放的な演出を行っている。
新景観政策の現場においては、単なる形態の問題として建物のデザインが議論されることが多い中、その軒庇の本来持つ美しさや、独自の意匠上の優れた工夫を、夜の京都の街並みにうまく生かしていく必要があると強く感じた印象的なプロジェクトとなった。