ローバー都市建築事務所の設計物件や、弊社代表の野村正樹が執筆するコラムなど、
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きょうと空間創生術 [242]
第52回を迎えた秋の「京都非公開文化財特別公開」。芸術の秋にふさわしく、今年も10月28日〜11月7日の日程で、京都市・八幡市の全21カ所で開催された。普段は非公開とされている伝統の社寺に加え、今年は新しく近代建築のキリスト教会「京都ハリストス正教会」が初公開された=写真。
京都市中京区柳馬場二条にある「京都ハリストス正教会(京都生神女福音大聖堂(しょうしんじょふくいんだいせいどう))」。1903(明治36)年完成のこの教会は、府庁舎本館の設計者としても知られる府の技官、松室重光の設計による。白壁と緑青色の銅板ぶきの尖(せん)塔が印象的なその外観は、ロシア・ビザンチン様式建築でありながら、和洋折衷の洗練された独特の造形美を生み出している。鐘楼の高さは約22メートルにも及び、玄関・鐘楼・聖所に向けて聖なる空間が上昇して広がりを見せている。大型の本格的木造聖堂建築としては、日本正教会において最古であり、67(昭和42)年に京都市の有形文化財に指定されている。
内部に入ると、正面には30面の聖像画(イコン)をはめた、壮麗な多段式の聖障(イコノスタス)が鮮やかに飾られている。ロシアから移送されたというこの聖障は、正教会において内陣と至聖所を区切る重要な壁であり、尖塔と柱を模した装飾豊かなデザインが、白亜のしっくい壁と見事な調和を見せている。
この秋の特別公開にキリスト教の文化財が加わるのは、今回が初めてのことであり、「本家」ロシアにおいてもほとんど残っていない貴重な文化財を、身近に感じることのできたすてきな秋のひとときであった。