ローバー都市建築事務所の設計物件や、弊社代表の野村正樹が執筆するコラムなど、
雑誌や新聞に掲載されている情報のご紹介をいたします。
きょうと空間創生術 [232]
先日、京都市山科区御陵の琵琶湖疎水沿いにある「栗原邸(旧鶴巻邸)」を訪れる機会に恵まれた。今から87年前、1929(昭和4)年完成のこの建物は、京都を中心に活躍した建築家・本野精吾の設計であり、京都高等工芸学校(現・京都工芸繊維大学)の校長を務めた染織家・鶴巻鶴一の邸宅として建設されたものである。当時の最先端工法である「中村式鉄筋コンクリート建築」による特殊なL字型のコンクリートブロックで建てられたこの住宅は、その文化的価値の高さから、2014(平成26)年には国の登録有形文化財にも指定されている。
本野精吾は、昭和初期に活躍した建築家であり、19世紀以前の様式建築からの脱却を目指して、日本におけるモダニズム建築の黎明(れいめい)期を築いた建築家として有名である。モダニズム建築とは、建築は用途や素材に従って設計するべきであるという理念のもと、機能性、合理性を重視した近代建築のひとつのスタイルであり、無装飾で抽象的な形態を用いながら、コンクリート造や鉄骨造という当時の新しい技術で建造されているのが、その特徴である。
さらに、栗原邸においては玄関ポーチのデザインやインテリアにおいて、ウィーン分離派(セセッション)やアール・デコなどのモダニズム以前の造形要素がとりいれられ、他に類をみない独自の美しい建築作品となっている。写真は、栗原邸の玄関ポーチ部分。コンクリートの質感を丸い柱と継ぎ目のない曲線梁(はり)で表現した美しい造形は、外観の一番の見せ場となっている。