Published 〜メディア掲載情報〜

ローバー都市建築事務所の設計物件や、弊社代表の野村正樹が執筆するコラムなど、
雑誌や新聞に掲載されている情報のご紹介をいたします。

毎日新聞 2016年02月05日号

毎日新聞 2016年02月05日号
 

きょうと空間創生術 [224]

二畳台目に広がる世界

毎日新聞 2016年02月05日号  先日、京都市中京区にある、一軒の茶室を訪れる機会に恵まれた。釜座二条を北に進むと東側にある掘内家(ほりのうちけ)。堀内家は代々表千家の宗匠を務める茶家であり、内には、「長生庵(ちょうせいあん)」という二畳台目の茶室を備えている。

現在の地に、堀内家が江戸より居を構えたのは、宝永5(1708)年の大火の後と考えられている。このあたりは平安遷都前の旧鴨川(小川通付近)に近く、北の千家から南の藪内家に至る名水の並びの内にあり、近くには滋野井も存在している。約300平方メートルの敷地の中には茶室と路地が巧みに配置され、他にも「無着軒」「半桂」という茶室が建てられている。

北西隅にある長屋門形式の門構えをくぐり、左手にある供待をみながら石畳を進んでいくと、長生庵の玄関へとたどり着く。現在の長生庵は明治2(1869)年の建造であり、蛤御門(はまぐりごもん)の変による消失後に再建されたものである。

二畳台目・下座床の標準的なその間取りは利休好みの典型的な形であり、床柱には赤松の皮付丸太が使用されている。床框(がまち)には北山丸太、落し掛けには赤杉材がそれぞれ使用されており、全体として穏やかな印象を受ける床の間のしつらえとなっている。

天井に目をやると、にじり口上が化粧屋根裏の駆け込み天井、床前が板張りの平天井、手前座が蒲(がま)の落天井と全体を3つの天井で構成する意匠となっている。

天井の高さにもそれぞれに高低があり全体として、広がりのある侘びた空間となっている。窓は、手前座の風呂先窓、にじり口上の連子窓、西面大小の二つの下地窓によって自然光が取り入れられ、居心地のいい柔らかな光を感じることができる。

三畳にも満たない二畳台目の、茶室空間。こじんまりとしたその世界のなかに、無限の広がりを感じることのできた豊かな時間であった。

 
(株)ローバー都市建築事務所


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