ローバー都市建築事務所の設計物件や、弊社代表の野村正樹が執筆するコラムなど、
雑誌や新聞に掲載されている情報のご紹介をいたします。
きょうと空間創生術 [220]
京都市南区九条町にある世界遺産「東寺(教王護国寺)」。平安京遷都の直後の延暦15(796)年創建と伝えられ、平安京の遺構を現代に伝える、東寺真言宗の総本山でもある。有名な「五重塔」は、東寺のみならず京都のシンボルでもあり、その高さは54.8メートル。日本一の高さを誇る木造建築物であり、現在の五重塔は、寛永21(1644)年、徳川家光の寄進で再建された五代目にあたる。
先日、そんな東寺の秋の特別公開を訪れる機会に恵まれた。境内にある「小子房(しょうしぼう)」=写真=では、「堂本印象画伯障壁画」が特別公開され、西陣織の図案描きの仕事から日本画を志し、近代美術界で名をはせた京都画壇のひとり「堂本印象」が43歳の時に描いた合計6室の襖(ふすま)絵・障壁画が特別展示されていた。この小子房はもとは皇室の方々や高僧をお迎えする特別な迎賓館であり、南北朝時代には光厳上皇(こうごんじょうこう)により御所としても使用された由緒ある建物でもある。
現在の小子房は、1934(昭和9)年に再建された総ひのき造りの建物であり昭和を代表する名建築のひとつとされ、庭園「澄心苑」は平安神宮の神苑などを手掛けた京都を代表する庭師、七代目小川治兵衛の作庭によるものである。
内部は、鷲の間、牡丹の間、勅使の間など6部屋からなり、牡丹の間、瓜の間などにはそれぞれ水墨の絵が描かれているのに対し、勅使の間には極彩色豊かな「渓流に鶴」が描かれている。水墨と金碧により、枯淡と華麗が見事に調和融合された堂本印象の世界にふれ、刺激を受けた秋の一日であった。