ローバー都市建築事務所の設計物件や、弊社代表の野村正樹が執筆するコラムなど、
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きょうと空間創生術 [213]
=写真=は京都市上京区の西陣にある地上11階建てのマンション「メガロコープ西陣」の屋上から撮影した風景。もともとは昭染工業株式会社の染糸工場であった広大な敷地を開発し、昭和47(1972)年に建設された、築43年、総戸数405戸を有する大型の鉄骨鉄筋コンクリート造の集合住宅である。私自身、昭和47年の2歳の時から12歳まで、10年間を過ごした思い出のあるマンションであり、毎年、五山送り火をこの屋上から眺めていたのを覚えている。
地上31メートルから眺めたその風景は、今でも鮮明に記憶している。当時は、「右大文字」「妙法」「舟形」「左大文字」の四山がこの屋上からはっきりと見え、浴衣を着ながら、家族や多くの友人と楽しいお盆を過ごしたものである。私が、最後にこの屋上に上ったのは、今から34年前の11歳の夏のこと。現在は、安全上の理由から屋上の開放はされていないそうであるが、当時はさながら夏祭りのような雰囲気で、多くの住民によってにぎわいをみせていた。
あれから34年の月日が流れ、今でも「右大文字」「妙法」「舟形」「左大文字」の四山が見えているのか、不安と期待を胸に屋上の扉を開けてみた。眼下に広がる、送り火への風景は昔と変わらずそのままであった。正面に見える船岡山や、北山の山並みも、そのままで当時の姿を美しくとどめており、少し安どすると同時にうれしい気持ちになった。ただ、京都タワー方向、南側を眺めるその風景は、ビルが立ち並び様変わりしてしまっている。
時代の流れを肌で感じるとともに、美しい街並みのありかたを考えることのできた貴重な夏の体験であった。