ローバー都市建築事務所の設計物件や、弊社代表の野村正樹が執筆するコラムなど、
雑誌や新聞に掲載されている情報のご紹介をいたします。
きょうと空間創生術 [209]
間口が狭く、奥行きが深い「うなぎの寝床」とも呼ばれる、細長い敷地に建設されてきた京都の町家。応仁の乱以降、都の再興をおこなった太閤・豊臣秀吉が、現在の固定資産税にあたる土地の税金に、間口によって課税する方式を採用したため、このような細長い敷地形状が形成されるに至ったとも、一説にはいわれている。
京都の町衆は「うなぎの寝床」に居住するにあたり、敷地内にさまざまな庭を家の中につくりながら、各部屋への採光や通風を計画すると同時に、高密度化された都市居住環境においても、四季折々の自然を感じることのできる快適な住まいを構築してきた。中庭や坪庭・通り庭・前庭・玄関庭といった、多様かつ多彩な庭空間を取り入れることにより、日々の暮らしを豊かに過ごしてきたのである。
写真は前回もご紹介した「伏見の京町家」の再生事例。石灯籠(とうろう)やつくばいで奇麗に整備された中庭を大胆にLDK空間に取り込む計画となっている。勾配天井とのバランスを考えながら視覚的にも美しく連続性のある、居住環境を形成した。従前は渡り廊下と水回りであった、中庭に面したスペースは、新しく家族のだんらんの中心として活用される居心地のいい空間へと再定義されることとなった。
時代の移り変わりと共に変化する、私たちの暮らしの在り方。先人の知恵を引き継ぎながら新しい工夫を重ねることこそが、伝統の継承となると思えた印象的なプロジェクトとなった。