ローバー都市建築事務所の設計物件や、弊社代表の野村正樹が執筆するコラムなど、
雑誌や新聞に掲載されている情報のご紹介をいたします。
きょうと空間創生術 [208]
京都の町家には、「通り庭」と呼ばれる、独特の細長い吹抜空間が存在する。町家の表通りの玄関部分から裏庭へと通された1本の土間スペースであり、通常は、建物の東側か南側に計画されている。京町家に暮らす人々はこの土間スペースで炊事をし、おくどさん(かまど)に木をくべながら日々の暮らしを営んでいた。また、この「通り庭」は防火上も有効な役目を担っており、万が一の火災の際には、防火緩衝帯としても役立つように工夫がなされている。
先日、京都市伏見区にある1軒の京町家を再生する機会に恵まれた。昭和初期に建設されたと思われる立派な京町家は、お年寄りのお母さんが一人で住んでいる思い出のある大切な京町家であった。この度、娘さんご家族と一緒に住むことになり、プライバシーを尊重しながら快適に過ごすことのできる2世帯住居への改装を希望されていた。
写真は、新しく生まれ変わった通り庭空間。改装前は、低く天井が貼られ、薄暗い印象を感じるダイニングキッチンであった場所である。内玄関をくぐると、ダイナミックな小屋梁と、柔らかな自然光が差し込む高窓が印象的な吹き抜け空間が現れる。時には接客スペースとして、またソファでくつろぎながら趣味を楽しめるプライベートスペースとしても利用することのできる、開放的で居心地の良い「通り庭」である。
住宅設備や電化製品の現代化により、炊事の場所としての機能を失ってしまった「通り庭」。平成の現在において、その意味性を新しく再定義することにより、豊かで幸せな暮らしを演出するひとつのステージになると感じた好事例であった。