ローバー都市建築事務所の設計物件や、弊社代表の野村正樹が執筆するコラムなど、
雑誌や新聞に掲載されている情報のご紹介をいたします。
きょうと空間創生術 [207]
先日、京都市左京区鞍馬にある一軒の住宅を改装する機会に恵まれた。鞍馬街道沿いに面したこの住宅には、裏庭の山々の風景と調和しながら、奇麗に手入れのされた伝統的な奥座敷があり、その美しさが印象的な建物であった。
今回、2世帯住宅としてのリフォームを行うにあたっては、以前の家の良さを継承しながらも古さを感じさせることなく、使いやすく明るい機能的な空間への改装が求められていた。また、「鞍馬」の地域性を考慮し、厳しい冬の期間においても快適に暮らすことの出来る居住環境を構築する必要性があった。
新しく計画されたリビングダイニングには、美しくきめ細やかな木目が特徴的な 幅広のチェリーフローリングを選定し、奥座敷への連続性とその対比を考えながら、広々とした空間を演出した。家族が慣れ親しんだ欄間部分の細工や大黒柱もそのまま室内のインテリアとして取り込むことにより、全体として調和のとれた上品な団らんスペースが完成した。
写真は、リビング部分から奥座敷を眺めた風景。裏庭の風景が座敷の奥に映しだされている様子が見て取れる。すべてを新しく改装してしまうフルリフォームではなく、こうして、家としての良い部分をうまく残しながら活用することにより、ぬくもりのある豊かな空間が誕生する。以前より慣れ親しんだ家の記憶と自然を身近に感じながら過ごす日々の暮らしは、都会の新築住宅では味わうことのできない、幸せな暮らしを演出する住空間となる。そんな思いを強く抱いた、鞍馬の改装プロジェクトであった。