ローバー都市建築事務所の設計物件や、弊社代表の野村正樹が執筆するコラムなど、
雑誌や新聞に掲載されている情報のご紹介をいたします。
きょうと空間創生術 [199]
近代和風の巨匠建築家・吉村順三(1908-97)。その土地のもつ文化や風土を大切に考え、日本の伝統や自然の要素から学びをとりいれた吉村の作品は、簡素でありながらも、私たちにとって豊かな空間を生み出している。写真は、昨年末に営業を終了し、53年の歴史に幕を下ろした「京都国際ホテル」。現在、解体工事が進められている。
「旧福井藩邸屋敷跡」に「京都国際ホテル」が開業したのは、昭和36(1961)年の8月16日。京都の夏の風物詩、五山の送り火があった日のことである。全274室、10階建ての近代的なその外観デザインは、京町家が持つその造形美をダイナミックに再構築しながらも水平線を強調し、当時においては新しく、斬新な「和」の可能性を予見させる建築であった。
高度成長期の京都にあって、美しい町並みがコンクリートによって近代化されていった1960年代。そのような時代にあっても、京都の建物が持つ人間的な尺度や伝統的な美しさを大切にしながら、近代建築のなかに再生していこうという吉村の設計思想がよくあらわれている建物であった。
古く平安時代より、堀河天皇の御所として使用され、その後、江戸時代には福井藩邸屋敷、明治時代には三井家屋敷として引き継がれてきた歴史ある場所。世界遺産「二条城」前に位置し、約7600平方メートルの広さを持つ歴史ある敷地。「京都国際ホテル」の所有者であった藤田観光のあとは、阪急不動産が取得し、現在、その跡地活用の具体的方法が模索されているところである。
ひとつの時代を築いた、近代の名建築が取り壊されてしまうことは、さみしくもあり残念ではあるが、これから未来を築いていくであろう、新しい建築空間の誕生が期待されるところである。