きょうと空間創生術 [195]
20世紀を代表する世界的な芸術家「棟方志功(1903〜1975)」。独自の世界を築き上げながら、自由奔放に創作された彼の作品は、今もなお、私たちの心に自然と人間の生命のたくましさ、美しさを強烈に印象づけ、多くの人々に愛され続けている。
先日、そんな「棟方志功」が京都へ来る度に滞在していたという、一軒の住宅を訪れる機会に恵まれた。京都市左京区北白川、京都造形芸術大学の近くにある「あわいの家」=写真。個性的な外観が特徴的なこの建物は、出版会社山口書店を創業した・山口繁太郎氏によって建てられた新旧2棟の建物からなる小住宅である。
棟方志功は山口氏と同じ青森県・津軽出身という縁で親交を深め、京都へ行く度にこの家に滞在し、気の向くまま、襖(ふすま)や板戸に自由に絵筆を走らせていたという。
二人の出会いは、地方展で棟方の作品を購入しようとした山口氏が、所持金不足で予約だけをしようとしたところ、気に入ったのなら進呈しようと棟方が申し出たことに始まる。津軽出身で、我が身ひとつで事業を興した二人の境遇は、相通じるものがあったのであろう。その後、棟方は最初の文集「板散華」を山口 書店から昭和17(1942)年に出版する。この「板散華」の中で、棟方は自身の版画への思いをつづり、今後自身の「版画」を「板画」と呼ぶと表明している。
下絵をあてず絵を描くように、木板に直接刀で彫り込む手法で制作された棟方の「板画 」。このことは、その後の棟方の作風の転換点となる重要な出来事となっている 。
世界の巨匠「棟方志功」と山口繁太郎。往事の二人の、思いや空間に身を寄せることのできた、すてきな午後のひとときであった。