思いを引き継ぐ、応接空間
先日、福知山市にある「丹州 觀音寺」の「庫裏」を設計する機会に恵まれた。広大な境内には、100種約1万株ものアジサイが植裁されており、別名「あじさい寺」として人々に広く親しまれている。
庫裏とは仏教寺院における伽藍(がらん)のひとつであり、寺院の僧侶の居住する場所であるとともに、檀家(だんか)などの来客を応接する建物でもある。今回、老朽化した庫裏を建て直すにあたり住職は、長年、住まいとして慣れ親しんだ、過去の記憶の継承を希望されていた。
写真は、玄関に隣接した場所にある応接室の風景。奥にある坪庭の風景を、下部に切り取るようにピクチャーウインドウを計画。さらにアイポイント として石灯籠(とうろう)を配置している。天井は、開放感を演出することのできるよう斜天井として計画し、杉板を丁寧に貼りこんでいる。ペンダント照明には指物細工が美しい純和風照明を選定し、ダウンライトの調光とあわせて、「和」の落ち着 いた雰囲気を構築している。
インテリアのメインとなる大きなテーブルは、桧の一枚板を加工し、着色オイル塗装を施している。寺院の境内にあった桧の木を長年乾燥させ、この日のために住職が保管されていた大切な一枚板である。天然木の持つ、独特の木目が美 しい。正面奥にある2枚の格子状装飾照明は、以前の庫裡で使用されていた書院の障子を転用再生したものである。壁面内部に間接照明を組み込み、障子越しのやわらかな光を応接空間に落とし込んでいる。
他にも、建物内にはいろいろな場所で、以前の庫裡で使用されていた部材・古材を様々な工夫を凝らしながら使用している。全てを新しくするのではなく、先人の思いを大切に考えながら、次代へと引き継いでいく。そんな、住職のお考えを学ぶことのできた印象深いプロジェクトであった。
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