毎日新聞 2013年11月29日号


きょうと空間創生術きょうと空間創生術
 

但馬の小京都に学ぶ美しい町並みきょうと空間創生術

 先日、兵庫県にある豊岡市出石(いずし)町を訪れる機会に恵まれた。別名「但馬の小京都」ともよばれる美しい町並みは、城下町の風情を今によく残し、多くの人々を魅了している。古来より、出石町は、但馬文化発祥の地として古事記・日本書紀にもその名が見え、中世には応仁の乱で西軍の総大将をつとめた、山名宗全一族の本拠地として200年間もの間、発展を続けた。江戸時代になると、小出・松平・仙石氏ら5万8000石の城下町となり、但馬地方の政治・経済の中心地として繁栄を誇った歴史ある町である。

 現在でも、町のシンボルとなっている「辰鼓楼(しんころう)」=写真=と呼ばれる時を告げるために建造された太鼓櫓(やぐら)をはじめ、江戸時代に建築された上級武士の武家屋敷や酒蔵群、明治期に建築された旧郡役所建物(明治館)、社寺など、さまざまな建造物もよく保存されており、歴史の積み重ねを感じさせる町並みがうまく保存されている。2007年には国の重要伝統的建造物保存地区に指定され、更なる活用が図られている。

 一方、京都市においては現在、「産寧(さんねい)坂・石塀小路」「祇園新橋」「嵯峨鳥居本」「上賀茂」地域の4カ所が国の重要伝統的建造物保存地区に指定されている。いずれの地域も、京都を代表する雰囲気のあるたたずまいである。ただ、それぞれの両保存地区を比較したとき、出石町はその歴史的建造物を保存しながら積極的に活用し、町のにぎわいを創出しているのに対し、京都では建造物の保存を重要視している点において、その考え方には若干の差異が感じられる。

 これからの重要伝統的建造物保存地区におけるひとつのあり方について、改めて考えることのできた、秋の一日であった。

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