毎日新聞 2013年11月15日号


きょうと空間創生術きょうと空間創生術
 

居住空間の家と庭きょうと空間創生術

 先日、京都市右京区嵯峨にある一軒の新築分譲住宅を改装する機会に恵まれた。市中にありながら周りを山々にかこまれた緑豊かで閑静なその環境は、四季を通じて美しい風景を楽しむことのできる絶好のロケーションであった。

 街中の騒々しさから離れ、ゆっくりとした時間を過ごし、心身共にリラックスすることのできる空間への改装がクライアントの希望であった。落ち着きのある「和」の雰囲気をベースに自然環境とインテリアが緩やかに融合したぬくもりのあるスペースの構築をベースに、京都の良さを随所に感じることができるよう、改装計画をおこなった。

 従前は単調なフローリング張りにビニルクロスが張られていた殺風景な居住空間。対面式のシステムキッチンがあり無難に仕上げられてはいるものの、リビングを中心に、単調かつ無機質な空間が広がっていた。対面型のキッチンを障子で仕切り、暖色系の間接照明と珪藻土(けいそうど)タイルをアクセントに用いながら、外部の庭園空間を視線を考慮しながら丁寧に仕上げていく。外部庭園と内部空間が互いに呼応しながら、連続感のある関係性を築き上げている=写真。

 ともすれば、忘れがちになる外部空間との関係性。「家庭」という言葉が示すように、内部空間(家)と外部環境(庭)は有機的に連携してこそ、互いの存在価値は高まるのではないだろうか。先人が「坪庭」を大切にしてきたように私たちも、もう一度その関係性に着目する必要がある。

 玄関から和室に至るまで、京都で育まれた美意識と伝統工芸の技を用い本物の良さを、肌で感じることのできる落ち着きのある空間。少しの工夫とアイデアを取り入れることで、豊かな住空間を実現することのできた好事例となった。

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