毎日新聞 2011年11月11日号


きょうと空間創生術きょうと空間創生術
 

大切に使い続けられるオフィスビルきょうと空間創生術

 東京オリンピックや大阪万博に象徴される、日本の高度経済成長時代。京都においても数多くの鉄筋コンクリート造のビルが建設され、街が大きく生まれ変わろうとしていた時代であったのかも知れない。

 そんな高度成長時代に建てられ、先日、リノベーションにより新しく生まれ変わった「Jimukino-Ueda bldg(旧ウエダ本社南ビル)」を訪れる機会に恵まれた。下京区五条堺町南側にあるこのビルは、昭和43(1968)年に建設された築43年、地上6階地下1階の鉄筋コンクリート造のオフィスビルである。長年、オフィスとして使用されてきたこの建物も老朽化が進み、耐震性の向上と共に、空室対策のために新たな活用方法を再構築する必要性に迫られていた。

 改装後は、1階部分には地域に開かれたカフェを計画され、上層階には約70坪ある各フロアを細かく分割しながら改装された、合計22室からなるスモールオフィスが新設されている。更に、地階部分は、最先端のIT環境を整備したセミナールームとPCブースが構築されている。特徴的なのは3〜6階に計画された、風呂付きのオフィススペース。ホームオフィスとも呼ばれるこのような形態は、欧米ではよく見られるひとつの職住一体の居住スタイルではあるが、京都においてはまだ数が少ない。レトロなビルの持ち味と素材感をそのまま継承しながら、シンプルにまとめあげられたそれぞれの空間は、飾り気のない美しさを感じさせるものであった。安易な解体に頼ることなく、京都のオフィスビルを大切に使い続けることの良さを感じたリノベーション事例であった。

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