古都の香りを未来にはぐくむ
応仁の乱以降、豊臣秀吉の京都改造によって寺院が集められ、現在の原型をつくりあげた京都寺町かいわい。平安京造営時代に「東京極大路」として計画された「寺町通」には、明治28(1895)年から大正15(1925)年まで、31年間にわたって路面電車が走り、京都のメーンストリートとしてそのにぎわいをみせていた。
現在でも、丸太町通から南に軒を連ねる商店街には、創業294年の「一保堂茶舗」をはじめ、創業230年の「龍枝堂」、創業170年の「末廣」、更に創業100年以上の「更科」「大松」「豊松堂」「船はしや総本店」「村上開新堂」「京都古梅園」といった、京都でも屈指の老舗がずらりと軒を並べ、当時のにぎわいを、今もなお、街路に形成している。その他にも、古美術店や画廊・古書店が多数建ち並び、古都・雅(みやび)の文化の香りを現代にはぐくんでいる。
そんな「寺町通」に1軒の住宅を設計する機会に恵まれた。西国33カ所第19番札所である行願寺革堂にほど近く、イチョウ並木の歩道に面した計画地には、周囲の景観に配慮した美しい建物であることが求められた。杉板模様のコンクリート打ちっ放し壁と、「和」を象徴する格子をリズミカルに繰り返しながら外観を形成し、伝統美を感じさせながらも現代和の構築を目指した。端正なたたずまいを感じさせる建物の1階にはギャラリー「Art Space-MEISEI」を計画し、芸術・文化の情報発信施設としての機能も内包した。
新景観法の施行以来、京都にとってふさわしいデザインのあり方が議論されるようになった古都・京都。古いものを守るだけではなく、これから、次の世代になにを伝えるべきかという観点からのアプローチも非常に大切であると思えた寺町のプロジェクトであった。 |