築400年の騎牛門
前回の「京都空間創生術120」でも紹介した、左京区山端にある料理旅館「山ばな 平八茶屋」。天正4年(1576)の創業以来、435年の歴史を重ねる老舗料亭の正面玄関には「騎牛門」と呼ばれる、風変わりな門が建てられている。川端通に面するように建てられた、一見、草庵のような雰囲気のこの門は、築400年以上といわれ、現在は、平八茶屋の玄関口として大切に使用されている。
そんな「騎牛門」が現在の場所に移築されたのは、昭和27年(1952)のことである。高野川沿いにある川端通の拡張に伴って、それまでは敷地の南側、大阪八木商店別荘地(現・北山モノリス)にあった「騎牛門」を先代のご主人が譲り受けられたそうである。創建当初は、山口県萩地方にある禅宗寺院の門として使用されていたものが、様々な変遷を経た後、京都に移築されてきていたのである。
2本の巨大なケヤキを門の脚に使用しながら、その上に柿葺(こけらぶき)の庵(いおり)を抱いたスタイルは独特の荘厳な雰囲気を創り上げている。よくみると、庵の左右には仏像を安置することのできる空間が計画されており、当初、寺院に建造されていた名残を伺い知ることができる。また、このような高さ1.8mほどの門は、通称「下馬下乗の門」と呼ばれ、馬に乗ったまま通ることを許されない門として、格式の高い寺院に設置されることが多い。
代表的な禅宗的画題のひとつであり、牧童が牛を探し捕らえるまでの過程を描く「十牛図」。第六の図である「騎牛帰家」には、牛の背の上で楽しそうに歌を歌う、牧童の姿が描かれている。「騎牛」という変わった名前の由来とともに、さびの深さに触れることのできた貴重な体験であった。 |