毎日新聞 2011年6月3日号


きょうと空間創生術きょうと空間創生術
 

格子に感じる先人の知恵きょうと空間創生術

 先日、山科にある、1軒の和風住宅の再生をさせていただく機会に恵まれた。東山の山裾に位置する閑静な住宅地の中にあり、周りの緑や風景ともよく調和のとれた、美しい住宅であった。長年、この場所に住まわれてきたクライアントであったが、家族構成やライフスタイルの変化により、更に快適な住まいへの改装を希望されていた。

 通風と採光を向上させるために、建物の一部を除却することにより、開放的な庭スペースを確保すると共に、南側の日だまりスペースにタイル張りのリビング空間を計画する等、再び始まる新しい暮らしを快適に過ごしていただけるよう、全体的に工夫を凝らした。

 写真は、格子によるスクリーンを計画した玄関ホール部分。ライトアップされた細めの格子が、パブリックスペースとプライベートスペースを緩やかに区切ると共に、デザインのアクセントを形成している。

 京町家に代表されるように、格子は和風のデザインを語る上で、欠かせないエレメント(構成要素)となっているが、多くは外部空間において使用されることが多い。空間を区切ることのできるひとつの大きな壁面でありながら、採光と通風を確保し、同時に進入と視界を制御できることがその大きな特徴である。特に、京都においては、格子は独自の進化をとげ、親子格子や板子格子・細目格子など、さまざまな種類の格子が考案されてきた。

 いわば、先人たちの智恵の蓄積ともいうべき豊かな工夫が、格子にはこめられている。現代においても、その意味合いを再考し、更なる工夫を格子に加えていくことにより、大事な伝統を伝えていきたいと、改めて感じることのできたプロジェクトであった。
 

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