毎日新聞 2010年4月9日号


きょうと空間創生術きょうと空間創生術
 

猫と共に暮らす京町家きょうと空間創生術

 先日、上京区に位置する、路地奥のとある京町家空間を改装する機会に恵まれた。今回、ご結婚を機に新生活を始められる、ご夫婦のための改装プロジェクトであった。

 間口3間足らず、奥行き5間ほどの小さな仕舞屋(しもたや)のつくりではあったが、昔の雰囲気をそのまま残したような手入れの行き届いた京町家であった。通り庭部分は土間のまま保存されており、おくどさんや井戸やタイル張りの流しもそのままの状態で残されていた。

 クライアントご夫婦は、共に猫がお好きであり、今回のこの京町家では2匹の猫と共に住まう事を希望されていた。本来、人が住まうための住空間である京町家を、猫たちにとっても快適な生活を営むことのできる装置としての機能を京町家空間に計画する必要性があったのである。

 ロフトに上るための階段状の違い棚。おくどさんの焚(た)き口を再利用した、猫専用のくぐり扉。キャットウォークと呼ばれる、小さな猫専用の渡り廊下。他にも、様々な工夫を凝らしながら、人と猫とが共存することができる住空間としての整備を図ることとしたのである。

 猫と楽しく暮らすことの出来る空間というものを考えてみたとき、実は大事であるのは家族のように一緒に幸せに暮らすことのできる豊かさであると思うのである。人も動物も本来持ち合わせている、幸せに感じることのできる感覚。すなわち、優しさやぬくもり・笑顔といった本能的に感じることのできる感覚は共通であると思うのである。今まで、そういった部分を大切に考えてきたことが、結果、動物にとっても幸せな環境であるということを新しく発見することのできるプロジェクトであった。

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