火袋空間を快適空間に
京都の町家には、「通り庭」という独特の細長い吹き抜け空間が存在する。町家の表通りの玄関部分から裏庭へと通された土間スペースであり、基本的に建物の南か東に配される。京町家に暮らす人々はこの土間スペースで炊事を行い、おくどさん(かまど)に木をくべながら日々の暮らしを営んでいたのである。
そんな、通り庭の台所上部の梁(はり)や柱が交差する吹き抜けのスペースは「火袋」とよばれ、煮炊きものの煙や熱気を外へ逃がすための空間として計画されている。上部には、採光・煙出しのための天窓や高窓が配置され、そこから、柔らかな自然光が差し込む工夫もされている。
戦後、炊飯器やガスコンロの普及に伴って、おくどさんに火をくべることもなくなり、結果、火袋はその役割を担う必要がなくなった。他にも、ステンレス流し台や冷蔵庫・換気扇といった住宅設備も近代化され、人々の生活様式は大きく変化することになる。
写真は、左京区にある町家の改修事例。吹き抜け部分に床を貼り、細長い縦長の火袋空間を巧みに利用した快適な空間として再生させている。天窓からは柔らかな光が差し込み、ソファでくつろぎながら趣味を楽しめるプライベートスペースとしての利用が図られている。
現代において、単なる物置や倉庫として、あまり利用価値のない空間として取り扱われることの多い「火袋」空間。先人たちの知恵をもう一度見つめ直し、新しい空間資源として再活用を図ることも必要だと思うのである。
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