いつまでも美しい建築
写真は左京区浄土寺、銀閣寺のすぐ近くにある洋館建築。”とんがりぼうし”が印象的なこの建物は現在、「GOSPEL」という喫茶店として使用されている。以前から、その均整のとれた神戸異人館のようなプロポーションが気になっていた。1982年(昭和
57)建造の美しい洋館建築である。
玄関を中央に配した寄棟(よせむね)屋根の「主棟(しゅとう)」に八角形の「尖塔(せんとう)」をとりあわせて、全体を左右非対称(アンシンメトリー)に設計したその外観は、ビクトリアン王朝の中期にイギリス
で生まれた様式である「クイーンアン様式」を強く意識したデザイン。一部使用されている、装飾性を排除した現代的なデザインは、「京都空間創生術61」でも紹介した
「国際様式」の手法であり、モダンな要素を柔軟に取り込んだ現代的な感覚でまとめられているところは興味深い。玄昌石でうろこ模様に葺(ふ)かれた屋根や、木製窓・焼きすぎレンガが使用された外塀などにも素材へのこだわりを感じるこ
とができる。
さらに、隅々までクラシカルなディテールでまとめられた上品な室内には、本物の無垢材が使用された「ナラ」のフローリングの上に1920年代の椅子が並べられ、今も大切に使われている大理石製の暖炉がまるで「居間を開放した」ような雰囲気を創出している。本物の素材がもつその美しさは、27年経った現在も色あせることなく、むしろ、輝きを増しているようにすら感じられる。
イチロー選手のあの名言「野球がうまくなりたいのなら、いい道具を持って、グラブを磨け。」を、私たちの建築にたとえるならば「豊かな暮らしをしたいのなら、いい素材を使って、その手入れを怠らない。」ということになるのであろうか。いつまでも美しい建築とはそういう存在なのだろう。 |