毎日新聞 2009年08月28日号


きょうと空間創生術きょうと空間創生術
 

歴史都市京都の遺伝子きょうと空間創生術

 先日、筑波大学名誉教授村上和雄氏の話を聞く機会に恵まれた。DNA解明の世界的権威である先生のお話は、生命が地球上に誕生して以来38億年の歴史の中で、脈々と受 け継がれてきたいのちの設計図が遺伝子には描かれているというものであった。

私たちは親から生まれ、その親もまた祖父母から生まれている。こうして、過去に延々とさかのぼるとその先祖はある共通の原始生命となる。そう考えていくと、現在地球上に生存するすべての動植物は私たちの親戚や先祖のような存在であるというこ とになる。人は胎内で受精卵から38億年の進化の過程をたどるといわれており、単純に割り算をしていくと赤ちゃんは1日当たり約1400万年分の進化の過程を歩んでいることとなる。

生命と同じように、この歴史都市京都にも、脈々と受け継がれた遺伝子のようなものが存在すると考えるのは私だけであろうか?先人の知恵が積み重なり、さまざまな人々のさまざまな暮らしの中ではぐくまれ、受け継がれてきた京都の文化。現在、私たちが積極的に取り組んでいる京都デザインの創造的再生もこうした考えに基づきながら取り組んでいる。写真は脈々と受け継がれて来た遺伝子が反映したと思われる住まいである。

数年前、東京の大手事務所が設計した、ある新築分譲マンションを見学した。「和のしつらえ」として和室があったが、どう見ても私たちが幼いころより慣れ親しんできた 「和のしつらえ」とはほど遠かった。障子や床の間といった、本来和室にとって大切な構成要素ではあるはずのデザインは見た目だけの表面的なものであり、端正で凛とした美しさがそこには存 在しなかったのである。以来、私は本当の京都の良さ・美しさを再発見するべく日夜設計を続けている。

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