毎日新聞 2009年07月17日号


きょうと空間創生術きょうと空間創生術
 

三条通りのセセッション様式きょうと空間創生術

 現在では、当たり前となっている銀行の「定期預金」。戦前の貯蓄銀行では据置貯金とよばれ、満期日や据置期間を設定し、期間中払戻をしない代わりに、普通預金よりも高い利率が付与されるのが特徴である。この制度を考案したのが、かつて、日本の貯金王といわれた牧野元次郎であり、1900(明治33)年に設立した「不動貯金銀行」は、その後の昭和10年代には、他の五大銀行(第一・三井・住友・安田・三菱) と肩を並べるまで発展することとなった。戦後、「不動貯金銀行」は、改称や合併によりかたちを変えて、現在ではりそな銀行となっている。

そんな「不動貯金銀行」の旧三条支店は、現在も、複合商業施設のビル「SACRAビル」としてリニューアルされ、大切に使用されている。鉄筋コンクリート造のようなこの建物は、実は木骨煉瓦造地上3階地下1階建の建物であり、1915(大正4)年の暮れに竣工した。明治時代、近代化に成功した京都。第一次世界大戦の特需景気にわく大正時代は、まちの風景も更にモダンな姿に変わりゆく時代でもあった。建物正面 は大正初期に日本で流行し、過去の様式に捉われない新しいデザインを目指した「セセッション」と呼ばれるスタイル。ルネッサンス風の外観意匠に正面中央の円形装飾 や1階部分の縞模様等、細かな幾何学的装飾を施したデザインは、まさに大正モダンの先駆けともいえる斬新な構成である。

1988(昭和63)年の改装により、市民に近代洋風建築が注目されるきっかけともなった、「SACRAビル」。同じ三条界隈の前回紹介した旧日本銀行京都支店の「京都文化博物館」や旧京都中央電話局の「新風館」とともに近代建築の再生を象徴する建物である。

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