毎日新聞 2009年05月15日号


きょうと空間創生術きょうと空間創生術
 

大正15年の京町家再生きょうと空間創生術

 上京区堀川丸太町西に位置する、間口6間の京町家(写真左)。世界遺産・二条城からもほど近い、立派な表屋造りのこの町家は、和菓子店 「嘉楽本舗たにぐち」の本社として、現在も大切に使用されている。

建造当初の建築確認書類や設計図面も、きれいに保存されており、現存する建物の他にも、大変価値の高い一級品の資料が揃っていた。資料を見ると、建築確認申請は大正15年、施工は京都工務所。今回、私たちは、築84年の京町家を再生するにあたり、忠実にその姿を再構成することに主眼をおいた。京都市「京町家耐震診断」、(財)京都市景観・まちづくりセンター 「京町家まちづくりファンド事業」等、公的制度を十分に活用しながら、京町家の再生に取り組んだのである。ポイントとなる大看板には、新潟県柏崎市から取り寄せた、幅4㍍の欅材を使用。戦前の丸太町通りの写真を参考にしながら、当時の姿を再現した。平成の景観条例においては、この看板は基準以上の大きさではあるが、行政の理解もあって特別に「昔の京都らしい」看板を設置することが可能になった。

今回の改修においては東隣にある、鉄骨造の店舗改修も同時に行ない、町並みの修景を試みた。タイル張りで殺風景な印象の建物を、現代和をモチーフにし、格子と瓦で表情を創り出したのである(写真右)。伝統的なデザインと現代的なデザインの対比による、町並みへのアプローチは、今後の街路修景における一つの参考事例となれば幸いである。

創業明治41年、今年で創業100周年を迎えるクライアントの、「創業者の思いに立ち返りながら、未来につなげる」という思いをかたちにあらわした、京町家再生事例プロジェクトであった。

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