毎日新聞 2009年03月06日号


きょうと空間創生術きょうと空間創生術
 

珍しいむしこ窓きょうと空間創生術

 上京区妙顕寺南、東小川通りに面する、1軒の京町家。先日、財団法人京都市景観・まちづくりセンターの依頼を受け、町家調査を行った。応仁の乱以降、千家をはじめとしたさまざまな人々が脈々とこの地で茶道文化を形成してきた上京小川地区。織屋,商家と社寺や茶道家の門構えが今も 混在し、往事の風景を色濃く残す。そんな上京小川歴史的景観保全修景地区にも隣接する、中2階建て様式のこの京町家は、一見すると、よくある虫籠(むしこ)窓造り「仕舞屋(しもたや)」の構えでもある。

 虫籠窓とは、京町家の2階によく使用されていた、窓格子のスタイルである。木製格子に荒縄を巻き、漆喰(しっくい)や聚楽(じゅらく)などで格子を塗りこみ、防火性能を高め、万一の火災時においても、外部への火の吹き出しを防ぐといった大切な機能がある。その他にも、防犯や通風・採光といった機能も持ち合わせ、まさに、先人たちの知恵により考案されている窓格子である。その名前の由来については、格子の形状が「虫籠」に似ているからという説と、セイロの下に敷く「蒸し子」に似ているという説がある。

 そんな2階の虫籠窓に目をやると、中央部分にぽっかりと穴があいている。今まで数多くの町家を見てきた私にとっても珍しいスタイル。もともと存在していたであろう内部の木製窓部分は、現在トタン板でふさがれてはいるものの、通風と採光を高めるために工夫がされている。周りを見渡すと、向かいにも同じようなデザインの虫籠窓が。おそらく、地域固有の風雅な景観の町並みとしてデザインされたのであろう。

 改めて、京町家の深さを知るいい機会に恵まれた。

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