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日経アーキテクチュア 6月9日号


【 日経アーキテクチュア 6月9日号 】



景観新時代

日経アーキテクチュア 6月9日号

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 京都市の市街地景観課は連日、建築関係者でごった返していた。地図を広げて規制の範囲を確認する人もいれば、建材の見本を手に職員にくってかかる人もいる。2007年9月、京都市は,複数の制度を組み合わせて景観規制を強化する「新景観政策」をスタートした。

 美観地区は以前の約1.7倍の3431haに指定範囲を拡大し、中心市街地のほぼ全域をカバーする。建築の高さ制限では、45mの高度地区を撤廃。例えば、都心部の幹線道路沿いでは高さ制限を45mから31mに引き下げた。ほかにも全市で屋外広告物を全面禁止するなど、厳しい景観規制に踏み切った。

 なかでも設計者を困惑させているのが、新たにデザイン基準に盛り込まれた「軒の出は60cm以上」「ケラバ(切妻屋根の妻側屋根の端部)の出は30p以上」といった具体的数値だ。

 上京区に事務所を構えるローバー都市建築事務所の野村正樹代表は新景観政策がスタートしたとき、「空の見える家」というコンセプトで三寸勾配の片流れ屋根と陸屋根を架けた二世帯住宅を設計していた。対象地区のデザイン基準に「特定こう配(3〜4.5寸)屋根にする」との規定があった。片流れ屋根は想定していない。市街地景観課の担当者から、基準に合ったこう配の切り妻屋根にするように指導された。

 「市に言われた通りにしたら。窓から空が見えなくなる。私は『村野藤吾が設計した京都の佳水園は2寸こう配だが素晴らしい和風建築だ』と力説し、1寸こう配の腰屋根をつけるデザインを提案した」(野村氏、69ページ下段の図)。

 以来、5ヶ月間。野村氏は10回ほど事前協議を重ね、外観デザインを5回ほど変更。なんとか「空が見える」コンセプトを守る形で、まもなく景観の本審査に入る見込みだ。




私はこう見る
野村正樹 ローバー都市建築事務所


本質を考えないと「映画村」になる

 新しいデザイン基準の総論は賛成だが、運用が硬直的すぎる。
「軒の出は60cm以上」といった数値がでてくる。数値化は心ないデザインを排除するのに一定の効果はあるが、志を持って設計するなら軒の出などナンセンス。基準の本質を理解し、建物全体として京都らしい形を出すべき。「原則」というただし書きがあっても、「原則」を外すにはかなりの時間が要る。担当者を説得するには和風建築や景観に対する幅広い知識も必要だ。

 基準通りにつくれば審査はすんなり通るだろう。屋根さえ付ければいいと思っている設計者も多い。だが、それでは映画村のような街になりかねない。市も高いレベルで街並みの話をしたいはず。これをチャンスととらえ、京都らしい文化や新しい建築の形をつくるよいスタートにしたい。