毎日新聞 2008年03月14日号


きょうと空間創生術きょうと空間創生術
 

織屋建の吹き抜け空間 織屋建の吹き抜け空間

 応仁の乱以降、織物の産地として発展を続けてきた京都西陣。その地名は、山名宗全率いる西軍が本陣を構えたことに由来している。焼け野原となった、この地域に織物職人達が集まり、以後約400年間独自の織文化を創造してきたのである。

 そんな西陣地域には、「織屋建」(おりやだて)という、独特の京町家スタイルが存在する。一般的に京町屋は、「表屋造」(おもてやづくり)というスタイルで、多く建てられている。道路側に、“みせ”と呼ばれる商業・応接スペースがあり、道路から奥の部分に“おく”と呼ばれる居住スペースを設けることにより、店舗付き住宅として、職住一体の空間を形成している。

 これに対して、西陣織の背の高い織機を内蔵する為に考案された「織屋建」は、いわば、工場付き住宅としての職住一体型空間を形成している。織機の騒音が街路の迷惑とならないよう、道路から離れた部分に織工場スペースは計画されているのが大きな特徴であるとともに、採光用の天窓が付いた高い吹き抜け天井のスペースが魅力的な空間として最近人気を集めている。

 写真は先日、「手焼き煎餅+カフェ」の店として、浄福寺寺之内にOPENした「菓匠 宗禅」。 織工場スペースの開放的な空間を、和風モダンなカフェスペースとして再構築し、現代に和の精神性を表現。現代人にも気軽に楽しめる”こころ”の空間としての改修を試みた。荒廃していた裏庭も、浄福寺通りの石畳の街並みと呼応するようにしだれ桜・高雄もみじを主景に据え、地には苔と白川砂、背景には建仁寺垣をあしらい作庭をおこなった。

西陣固有の織屋建文化。その開放的な吹き抜け空間には未来につながる多様な可能性が秘められていると思うのである。

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