毎日新聞 2007年11月23日号


「USED家具がよく似合う」
 西陣の元機業店だった築90年の京町家。伝統産業に育まれた歴史ある京町家の リノベーション空間「les trois maisons(レトワメゾン)」として、12月9日にオープンする予定だ。フランス語で「三つの居住空間」を意味するこの商空間は、カフェ・ギャラリー・町家ステイの文化的交流機能を内包した複合施設として計画されている。

 伝統的な京町家の持つ洗練された造形美を、可能な限り現代的に再定義することをコンセプトに、たくさんの光と風が呼応するぬくもりを感じるスペースとして再生した。自然を取り込む坪庭や主庭という町衆の知恵のほか、現代的要素である音響や照明にもアイデアが凝らされ、ここちよさを五感で感じることのできる雰囲気となった。

 1階のカフェには、37席のチェアと座椅子が配置されている。「les troismaisons」ではイスやテーブルなどの家具は、「USED」と呼ばれる、中古品家具が使用されている。それぞれの色やかたちは、ばらばらで、傷やくすみがあるものも少なくない。しかしこの「USED家具」は京町家を再生した空間にあっては実にバランスのとれた、深い味わいを持つインテリアとして調和する。椅子に腰掛けてみると、その座り心地の良さには驚かされる。新品では味わうことのできない、使いこなされたとも言うべき感覚がそこにはある。

  確かに、築90年という歴史と伝統を重ねてきた、京町家にとって、新品の家具でコーディネートを行うのは、いささか不釣り合いなのかもしれない。なぜなら“レトロ”という概念をモダンかつ肯定的に捉えた場合、そこに存在するのは“懐かしさ”であるからだ。数年前に歌手・平井堅によりリメイクされ大ヒットとなった名曲「大きな古時計」。懐かしさをモダンに再生したこのカバー曲においても、おじいさんが座っているチェアは新品ではないであろうと思うのは私だけではないと思うのである。




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