毎日新聞 2007年11月09日号 |
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![]() 四条西洞院東入北側にある、「四条京町家」(「京都市伝統産業振興館」)。京町家の通り庭の奥には、現在では珍しくなった「五右衛門風呂」が保存されている。 「五右衛門風呂」は、安土桃山時代に実在していた大泥棒、石川五右衛門が京都の三条河原で釜ゆでの刑に処せられたところからその名がとられている。鉄製の風呂釜に直火で湯を温める方式の風呂釜で、釜が非常に高温となる。そのため、入るときには、浮いているふた代わりの底板を踏んで、釜に触れないように入浴しなければならない代物である。 弥次さん喜多さんでおなじみの「東海道中膝栗毛」小田原宿では、喜多さんが五右衛門風呂に下駄を履いたまま入浴してしまい、底を踏み抜いてしまった話が描かれている。また、余談ではあるが三条大橋西詰南側にある、ふたつの旅人姿の銅像が弥次さんと喜多さんの像であるということはあまり知られていない。私自身、学生時代の北海道一周旅行の際、札幌定山渓の山小屋で入浴したのが、初めての「五右衛門風呂」との出会いであった。山小屋の主人に湯加減を伝えながら、月明かりのなか、恐る恐る入浴したのであるが、入ってみると案外心地よく、湯けむりに包まれながら、妙な安らぎを得た想い出がある。 浴室内には、天窓が設けられ、日中の光を室内に取り込むと共に、夜間は月明かりを取り入れることのできる装置として、計画されている。また、洗い場に置かれているのは脚付きのたらいと脚付きの洗面桶。お湯があふれても桶が流れていかないための一工夫である。 大正ガラスの揺らめきの向こうに月と星を眺めながら、湯にはいるひととき。現在の浴室は、ユニットバスと呼ばれる、繊維強化プラスチックで一体成型されたカプセル型浴室が大半を占める。そのような、現代のライフスタイルにおいて、忘れられていた浴環境とも呼べる、こころ安らぐ湯けむりの情景を、モダンに提案していくのも私たちの役目であると思うのである。 |
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