毎日新聞 2007年10月26日号 |
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![]() 四条西洞院東入北側にある、「京都市伝統産業振興館」。四条通に面したこの施設は別名「四条京町家」とも呼ばれ、京ではぐくまれてきた、伝統的な暮らしと文化の良さを、市民に伝えるための施設として、現在、利用されている。間口6間・奥行20間、築97年のこの京町家は明治43年に鋼材卸商「田中文商店」の隠居所として建造され、今もなお往時の雰囲気を現在に伝えている。玄関からは見世庭・玄関庭・走り庭と通り庭が奥まで続き、裏には前栽(せんざい)という中庭と・奥庭が設けられている。 鈎型の敷地形状をうまく利用して、作庭された前栽は、隠居所であったということもあり、正面に白壁の土蔵を据えた、東西方向に広がりを持たせた配置となっている。庭内には、井戸が設けられ、他にも稲荷神社を祀っていた祠や大きな石灯籠、獅子頭(椿の一種)、樫が巧みに配され、座敷よりの眺めを意識した視線計画となっている。 そんな、前栽の一角に、現在では珍しい「水琴窟」がある。「水琴窟」とは、琴のような音を発生する、日本独自の庭園施設である。庭園の地中に小さな穴を開けた甕(かめ)を埋設し、その上に手水鉢(ちょうずばち)を置く。手水鉢から流れ落ちる水が小さな穴を通して中で反響することにより、甕の内部で美しい音色が生まれ、水滴の音でありながら琴の音のような何とも言えない和音を奏でるのである。水琴窟の音は水琴音と呼ばれ、非常に小さい音であり、耳を澄ませば聞こえる程ではあるが、澄み渡った情緒ある独特の音色である。実はこの水琴窟、昭和の時代になってからは、忘れられた存在であったのであるが、近年その良さが見直されてきている。 現代では、様々な水琴窟が制作されている。京都駅地下1階コンコースにある「火の鳥 水時計」には、ガラスの地球の中に、本物の水琴窟があり、心を癒す音色を奏でている。現代を生きる私たちにとって、水琴音は忘れていた何かを思い出させてくれる、懐かしい音色なのかもしれない。 |
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