毎日新聞 2007年08月24日号 |
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「昭和の名建築 佳水園」 ![]() 1960年(昭和35年)に竣工したこの別館は、村野藤吾氏による設計。日本古来の様式を忠実に踏襲しながら、独自のモダニズムを展開させる設計手法は、独特の風雅なリズムを奏でる、まさに昭和の名建築と呼ぶにふさわしい数寄屋建築である。 「佳水園」へのアプローチは7階から、そのまま東山山腹へと抜ける歩廊によってはじまる。7階に地面が出現するので、多少不思議な感覚になるかもしれないが、これはホテル自体がもともと東山の急斜面に添って寄り添うように建てられているためである。桂離宮の御幸(みゆき)門のような檜皮葺(ひわだぶき)の門をくぐると、右手に巨大な東山の天然岩盤を利用した「佳水園庭園」と瓢箪型の築山に白砂をあしらった中庭が広がる。そしてその白砂の中庭を取り囲むように平屋建の「佳水園」がコの字型に建てられており、山の斜面に添って20の客室が上へ上へと続いていく。 特に、薄く広がる緑青色の銅板屋根は、幾重にも入り組みながら、美しい造形美をつくりだしている。よく見ると入母屋の妻の端の部分を、寺や民家でつかう箕甲(みのこう)という手法で折り曲げてあるので、いっそう軽く柔らかく見えるのである。また、妻の薄さを強調するため木の母屋をみせず、鋼を使い木のように見せているところなども村野氏独特の手法である。 内部に入ると、伝統様式に近代感覚が巧みに生かされた、高雅なおもむきの和空間が展開する。外からの光をやわらかく室内にとりこんだ、和の美しさを再認識する落ち着きのあるインテリアは多彩な床材や天井板、唐紙の模様にもこだわりがある。桟の太さや間隔を微妙に変えた格子窓や、片方だけ和紙を張った障子戸等には随所に空間創生のアイデアが感じられる。照明器具や家具も村野氏のオリジナルデザイン。街の喧騒から離れ、東山の緑に包まれながら日常を忘れさせてくれる「佳水園」。一度訪ねてみてはいかがだろうか。 |
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