毎日新聞 2007年07月13日号 |
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「伝統色と素敵につきあう」 私たち、建築デザインの世界では、色彩の配色も実に重要なデザインの要素となっている。同じ、形や間取りであっても、色のコーディネートによって、華やかな空間や、モダンな空間に多様に変化するのである。しかしながら、建築現場の世界においては、重要な要素であるはずの色彩は、塗料用標準色と日本塗料工業界が定めたペンキの色合いで表現をされたり、マンセル記号という日本工業規格の呼称で取り扱われていることが大半である。例えば、紅色のような濃い赤色は、塗料用標準色では「C05-30T」と呼ばれ、マンセル記号では「5R3/10」と表現される。また、印刷出版業界では、DICと呼ばれる呼称が使用され、「DIC305」等と表記されている。 古来、日本においては、そんな記号による色の呼称の文化はなく、それぞれの色にそれぞれの名前がつけられてきた。既に8世紀初めの「万葉集」には、当時の日本人が使用していた素朴な着色材料の名前が色の名前として用いられており、当時、色がどのように使用され、人々が色にどんな感情を抱いていたかということもうかがえる。その後においても、色は身分をあらわす象徴として使用され、王朝・武家・商人といった文化を背景に、今日の優美典麗な、日本の色彩文化は育まれてきた。濃い赤色だけでも、「紅」「茜色」「緋色」「臙脂(えんじ)色」「蘇芳(すおう)色」「韓紅花(からくれない)」「紅殻色」「洋紅」「苺色」と様々な種類の色にそれぞれの名前が付けられ、色の背景にある微妙な表情も感じることができる。 写真は、そんな伝統色である「茜色(あかねいろ)」をインテリアの差し色に使用した、伏見稲荷の和風料理店「かのこ」。縦格子の奥に茜色の壁紙をあしらい、間接照明で夕焼けのように染め上げる。幻想的な情景をカラーでお見せできないのは残念。古来より藍とならんで植物染料として使用されていた茜。その赤い根を染料として使用することから「赤根」の名前がついている。 「あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」(万葉集巻一 額田王) の歌はあまりにも有名。記号ではあらわせない、日本古来の伝統色の持つ良さを もう一度見直し、 うまく暮らしに感じていきたいものである。 |
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