毎日新聞 2007年06月15日号


 
「大徳寺玉林院の「はまぐり」」
京都市北区紫野大徳寺町にある禅宗寺院「大徳寺」。釈迦如来を本尊とするこの寺院は、東西800メートル、南北500メートルという広さを有し、京都でも有数の規模を持つ禅宗寺院である。室町時代には「一休さん」の説話のモデルとして知られた、「一休宗純」和尚を輩出した寺としても名高い。境内には勅使門、三門、仏殿、法堂(はっとう)がほぼ一直線に並びこれらの中心伽藍のほかに、20か寺を超える塔頭(たっちゅう)(本山寺院の境内周辺にある関連寺院)が立ち並び、近世の雰囲気を今に残しているのも興味深い。

そんな、塔頭の一つである玉林院。本堂は、国の重要文化財に指定されている。現在、本堂の保存修理事業が来年12月までの予定で行われている。現時点では、骨組み部分の復原が完了し、小屋組・屋根葺材の復原がおこなわれているところ。江戸時代初期(元和7)に再建された現在の本堂は、いわゆる方丈型本堂の形式を取ってはいるが通常の六間取りの平面の上手に二室を加えたプランが特徴的である。他の塔頭本堂には現存例を見ない、桁行23.1m梁間15.0mという八間取りの大きな方丈型本堂は太い木割でつくられ、堂々とした威容を誇る。今回の改修により、入母屋造りの大屋根は瓦葺きから元和年間に創建された当初の檜皮葺に復原される予定である。檜皮葺(ひわだぶき)とは,檜(ひのき)の樹皮で建物の屋根を葺(ふ)く工法である。柿葺(スギやサワラの板を重ねて葺く工法)や茅葺(ススキやアシなどで葺く工法)などの植物性屋根葺工法に比べて,最も格式の高い技法であり,古くから貴族の住宅や神仏を祀る社殿や仏堂に使用されてきた。

写真は檜皮葺の施工現場。葺き足4mmの檜皮は60枚重ねられ、75cmもの厚みを持っている。コーナー部分は「はまぐり」と呼ばれる丸みを帯びた独特の曲面美を創りだす。丁度、蛤の貝殻のような模様と曲面を屋根に描き出している。檜皮葺独特の優美で軽快なフォルムは今でも、私たちの感性によく語りかけてくるのである。
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