毎日新聞 2007年05月11日号 |
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「京唐紙が伝える情景」 先日、古い町家を改装する機会に恵まれた。6帖一間の小さな長屋。築130年という年月を経て、内部は荒れ果て、裏庭にはトタン屋根がかけらている、薄暗い雰囲気のする長屋であった。一歩足を踏み入れると、床は沈み込み、どことなくほこり臭いにおいが立ちこめる鬱蒼とした状態であった。 現地調査を一通り終えた後、改修プランを考えていく。この6帖一間の小さな空間を素敵にするためには、落ち着きの中にも華やかさのあるアクセントが必要だ。いろいろとアイデアを巡らした後、今回は「京唐紙」を中心にインテリアコーディネートをおこなうこととした。 唐紙とははもともと、その名の通り中国から輸入された美術紙を指す。日本で作られるようになったのは平安中期以降という。丁寧に彫られた朴(ほお)の版木の上に、ふるいで絵具や雲母(きら)(花崗岩の成分に含まれる結晶を粉にしたもの)を置き、染料や顔料で染められた和紙にその文様を写し取る。江戸時代から伝わる、季節の草花や自然物を模した文様や、幾何学的な文様はどれも懐かしく、優しくこころに語りかけるものばかり。紙の色合いと絵具の色とのバランスも実に美しい和紙である。 写真は、そんな京唐紙を使用した「紋屋町のいえ」。襖紙に「影日向枝桜(かげひなたのえだざくら)」を選定。町家好みと呼ばれるつつましい小柄な桜の絵柄は柔らかな陰影が特徴的。光をあてると雲母がキラキラと静かにきらめく。床材には、ローズウッドの寄せ木フローリングを使用。坪庭もきれいに作庭することにより、「京唐紙」との相性の妙を楽しめる、温もりの中にも華やぎがある室内空間として再生した。 美しい模様を現在に伝える、京唐紙の役割は、今の私たちのライフスタイルにこそ必要とされているのかも知れない。時間を忘れながら、いつまでも眺めて飽きることのない、優しく懐かしい情景は、まるで忘れてきたなにかを思い出させるように、内に語りかけてくる。 |
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