毎日新聞 2006年12月01日号 |
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「床みどり床もみじ」 弊社の設計オフィスは、堀川今出川の北東、実相院町というところにある。その町名の由来を、紐解くと、現在の岩倉実相院がもとはこの地にあったのだという。 実相院は、大納言鷹司兼基の子、静基僧正を開基とし、鎌倉時代初期の1229(寛喜元)年、堀川今出川北東付近に創建された。その後、1411(応永18)年、応仁の乱の戦火を避けるために、現在の岩倉の地へと移されたのである。門跡寺院(皇族・貴族が出家し居住した特別な寺院)だった実相院は、華やかな宮廷文化を今に伝え、現存する客殿は、大宮御所から宮殿を移築したものであると言われている。また、寺院では、門跡寺院のみに飾ることを許された狩野派の襖絵も、実相院には京・江戸両狩野派がその技を結実させた124面が残り、その華麗さを現代に伝えている。 実相院には2つの庭がある。一つは、離宮などに多く見られる池泉回遊式庭園。裏山の景色と溶け込んだ素晴らしい庭はモリアオガエルの棲む庭池を中心に樹木や草花が巧みに配置されている。もう一つは、奥比叡の山並みを借景とした一仏八僧の枯山水庭園。お釈迦さまが八大弟子を集めて華厳の教を説いていられる姿を、石庭で表現している。 そんな2つの庭をつなぐ通路に数本の樹木がある。その木々の葉が漆塗りの黒光りする床に映る「床みどり」は、客殿に入ると、ちょうど切り取られた陽炎の風景のように見える。まるで水面に揺れるが如く、こころの内側に語りかける。「エメラルドグリーン」の幻想は、自然を家の中にまで取り込んだ実に見事な空間。秋の紅葉の季節には、これが「床もみじ」となり、磨き上げられた床を真っ赤に染める。その風景は感動するほど美しい。写真は、そんな「床もみじ」の風景。 紅葉が演出する自然のアートともいえる幻想的空間もまた心の都ではないだろうか。 |
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