毎日新聞 2006年10月13日号 |
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建築のこころ 先日、国宝茶席三名席の一として有名な「如庵」を訪れた。戦後に移築されたため、現在は、愛知県、犬山城下の有楽苑内にあるが、元和4(1618)年の創建当初は、東山建仁寺正伝院内に建てられていた。ちなみに残りの二名席は京都山崎大徳寺妙喜庵内の待庵 大徳寺龍光院内の密庵 となっている。 その如庵に連なる書院として建てられているのが、旧正伝院書院。大茶匠、信長の実弟織田有楽斎が建てた隠居所で、入母屋造りの簡素かつ温和な外観と、茶室風の床構えを基本とした内部空間が特徴的である。また、書院には長谷川等伯をはじめ狩野山雪、安信、常信、鶴沢、探山などの襖絵が残っている。 そんな、旧正伝院書院の縁側に一時間ほど座っていた。静かに流れる悠久の時。縁側空間のすばらしさを五感で感じる一時は、人とこころと自然を実感する瞬間でもあった。 内でもなければ外でもないという、縁側空間は、日本に見られる独特の構造で、日本家屋の曖昧さを特徴的にあらわしている。縁側は、自然に親しみ、自然との対話に重きを置く日本文化が育んだ独自の空間で、欧風建築ではベランダやポーチが構造的には似通ってはいるが、その精神性は質を異にしている。 近年、この“縁”のもつゆとりの部分が忘れ去られようとしていると感じている。予算的な制約や敷地条件といったこともあると思うが、昔は大切にされていたこころと自然を感じる場所としての“縁”空間の役割を今一度、現代において見直してみてはどうだろう。 写真は、先日設計した「書院のあるはなれ」。母屋と庭とはなれの関係を見つめ直し、人とこころが調和する空間として物置となっていた縁側を再整備。先人の思いや知恵を、次世代に大切に伝承していきたい。そんな建築のこころを受け継ぐ使命が我々にはあると考えている。 |
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