麻婆豆腐に かに玉?!
タブーなき 割烹の面白味
目前に七輪が出てきたと思えば、「甘鯛ラーメンのだしを、この焼いた頭でとります」。土鍋が湯気を上げると、とろっとろの玉子焼きを作って土鍋ご飯に被せ、あんをかけて「カニ玉です」。
その都度、カウンターで歓声が上がる。店主・前川浩一さんは溌剌と解説しながら、目の前で焼いて炙って、時に手巻きずしも作って「ハイ、どうぞ」。実に堂々たる“カウンターさばき”だが、ご本人曰く「実は、結構シャイなんで。まだまだ大将みたいに巧くはできないです。」
『祇園さゝ木』には、25歳で入店。13年間研鑽を重ね、最後は料理長を務めた。「料理人として必要なことは、すべて大将から学びました」。その師匠・佐々木 浩さんの背中を追って、2020年に独立。“前川劇場”は進化の一途を辿っている。
一斉スタートで始まる「おまかせ」は“さゝ木イズム”全開だ。燻製フォアグラをイチジクに射込んだり、麻婆豆腐を蒸し物に仕立てたり。日本料理の枠に囚われない、タブーなき感性を迸らせる。
ところが一変して、お椀は正道。「味はほとんど付けていません」という吸地は、昆布だしの野太い底味に思わず唸る。「ここを遊んだら和食ではなくなるので」。この潔さもまた、師匠譲りだ。
料理はすべて20000円のおまかせ(全12品)から。左/前菜の「イチジクのてんぷら 燻製フォアグラ射込み 胡麻味噌」。奥は「和風麻婆豆腐」。底に玉子豆腐、フカヒレあんをかけ、魚介と薬味を盛り、ジュッと熱した自家製ネギ油を。粉山椒と三ツ葉が香る和の風味。中/お椀は「松茸と小蕪 松葉柚子、スダチ添え」。昆布と血合い入りカツオ節でとる濃厚なだしの旨みが圧巻だ。右/最も盛り上がる締めは、カニミソソースでコクを深めた蟹玉ショウガご飯など、乙なセレクトで2種。
■店舗情報
京都市下京区西木屋町通松原下ル難波町405
075・744・0808
18:30~ 一斉スタート
日曜、第2・4月曜休、不定休あり
京阪本線清水五条駅から徒歩8分
予約必要/カードほぼすべて可/カウンター10席、個室1室(4~8名)
おまかせ20000円。日本酒1号1000円~、Gワイン1000円~、シャンパンB 7000円~。
江戸前鮨と “劇場型”の融合
シャリの仕上げも お客の前で
カウンターに土鍋を置き、野村一也さんが声を張る。「造りとアテを召し上がっていただく間に良い塩梅のシャリに仕上げます!」。赤酢を回しかけ、シャッシャッと軽快な音を立てて杓文字を動かす。その一挙一動に、満座の視線はくぎ付けだ。
野村さんは東京で鮨の経験を積み、『祇園さゝ木』へ。6年の修業の後、銀座『鮨 よしたけ』吉武正博さんの下で江戸前鮨の流儀を学んだ。ゴーサインが出るや、2019年に『鮨 楽味』の料理長に。
ある初夏の造りは軽く熟成させたヒラメ、続いて甘みたっぷりのボタンエビ。そこへ染付の鉢が運ばれた。「アワビです。蒸す前はこんなサイズやったんです!」と見せる殻の大きさに一同がどよめく中、「濃厚な肝ソース、続いて先ほど合わせた酸味立つシャリと共にリゾット感覚で召し上がってください」。『よしたけ』伝授のスペシャリテが『さゝ木』仕込みの口上テクニックと相まって座を沸かせる。
にぎりのトップバッターは『さゝ木』の代名詞・マグロ。ヅケにし、ジャストな温度と酸味に落ち着いたシャリで握る。炭で炙ったノドグロ、レア感を残す絶妙の茹で加減の車エビ。笹の香りをまとわせた煮穴子は儚くとろける。「ほろりと消えた!」。感嘆の声に包まれ、“楽味劇場”は大団円を迎える。
料理はすべて27000円のおまかせから。先付、造り2~3品、アテ4~5品、赤白2種の酢を使い分けるにぎり8~11カン、料理2品。上段左から/炭火焼の夏野菜とトリ貝。/蒸しアワビを披露し、大ぶりに切り分け、シャリ、肝ソースと共に供す。/金目鯛と原木椎茸の炭火焼。下段左から/ヅケ用の器はバカラ製。/「おやっさんが仕入れた中で一番いい部分」というマグロのヅケ。/天然の車エビ。/ふっくら、熱々の煮穴子の笹焼き。
■店舗情報
京都市東山区三吉町332-6
090・4566・3733
17:00・19:30一斉スタート/日曜、第2・4月曜休み、不定休あり
京阪本線三条駅・祇園四条駅から徒歩8分
予約必要/カードほぼすべて可/カウンター8席
おまかせ27000円。瓶ビール小1000円、日本酒G1100円~。
※現金の支払い不可、カード払いのみ、サービス料込。