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古民家スタイル


【 古民家スタイル10 2008-09-01 】



『町家を残すことは伝統を受け継ぐこと』

古民家スタイル

古民家スタイル

 

町家を残すことは伝統を受け継ぐこと

『職住一体』が基本スタイル

“京町家”の定義は、「京都市内中心部を中心として今も残る戦前の木造家屋」とされています。これらのなかには、改修によりベンガラ格子が取り外されるなどして外観が変わっていたり、通り庭や坪庭など本来あったはずのものがなくなっていたりして、みなさんが思っておられるような“京町家”とは様子の違うものもあります。町家のスタイルは、表側に仕事場があり、奥が住居になっている、『職住一体』。西陣の“織り屋建て”のように、表に住居、奥が仕事場になっている場合もありますが、やはり職住一体の住まいとなっています。 現在、京都市には約3万軒の町家があり、再生などによって有効活用されているのはそのうちの約6000軒といわれています。残りの2万4000軒については、昔のままであるか、あるいは空き家で、これらをうまく再利用して次の世代に残していくためには、町家を利用する人の存在はもちろん、何よりも大家さんの理解が必要だということを忘れてはいけません。ですから、私が参加しているボランティアグループ『町家倶楽部』では、単純に大家さんと町家を利用したい人たちとを結ぶことよりも、大家さんの意識をほぐすことで、町家を有効活用し残すことを目的としています。

町家から先人の知恵を学ぶ

 京町家には標準モジュールがあるので、部分的な交換ができ、ずっと使い続けることができます。商家はもちろん、借家建ての町家にも一定レベルの材が使われている、ここに京町家が多く残されている秘密があります。京唐紙や障子紙など、京都が誇る伝統文化も、こうした使い続けられる町家の建て方によって、受け継がれてきました。よく「住んでみたいけど、寒いし暑いから……」と言う方がいますが、町家で暮らすと、風の通し方や暖の取り方など、四季を通じて先人の色々な知恵を学ぶことができる、そういう部分を楽しんでもらいたいですね。といっても、床暖房やエアコンなどをがまんする必要はないんです。その時代に合わせた暮らし方をすればいいのですから。今は文化を楽しむことがブームになっていますよね、“京町家”に詰まっている知恵や工夫を知ることで、そこで暮らせることへの感謝と、文化に対する敬愛の気持ちが生まれ、そこから次の世代へと残そうという意識が生まれていきます。町家暮らしを考えている方には、ポジティブな発想で住むことを楽しんでもらいたいですね。

野村さんが代表取締役を務めるローバー都市建築事務所のアトリエは、西陣にある築80年の織り屋建ての京町家を再生し、使用している。写真は、かつて織り場として使用されていたスペース。天井が高い大空間となっているのは織り屋建て独特のものだとか。

1 かつて西陣の職人たちが暮らしていた築130年の長屋を再生した、ローバー都市建築    事務所の紋屋町研究所。荒廃した室内、トタンで隠されていた坪庭を甦らせ、小さいなが  らも京都らしい風情を感じさせる空間となっている。
2 京町家を再生した『TD HOUSE』。再三の改修により失われていた本来の姿を取り戻した   美しい外観。

PROFILE
ローバー都市建築事務所  野村正樹さん のむらまさき
■1970年京都市生まれ。’93年同志社大学法学部卒業。’95年京都工芸繊維大学造形工学科卒業。’95〜’99年株式会社NEO建築事務所勤務。’00年有限会社Rover都市建築事務所設立。’05年京都工芸繊維大学大学院建築設計学前期博士課程終了。’06年〜株式会社ローバー都市建築事務所代表取締役。京都造形芸術大学建築デザインコース非常勤講師。子供の頃から町家を体験。京都独自の条例を知り尽くすなど、微妙なさじ加減で町家を再生する。ローバー都市建築事務所のプロフィールはP140に掲載。

TD HOUSE

TD HOUSE
京町家のもつ本来の魅力を引き出して再生

ローバー都市建築事務所の野村正樹さんが再生を手掛けた『TD HOUSE』は、築80年の町家をバリアフリーにも対応する快適な住まいにした事例である。これまでに幾度となく改修され、つぎはぎのような場当たり的なリフォームによって本来の美しさを失っていたこの家を、明るく使い勝手のよい家にしたいと施主は望んでいた。野村さんは、京町家ならではの魅力を引き出しながら、ガラス建具の採用などによって暗かった室内に光が届く明るい空間を提案。また、シロアリの被害があったことに対応して、荒壁パネルや耐力格子を設置して耐震性を向上させている。歴史を重ねてきた町家の再生について野村さんは、「(今回のケースは)部材の痛みが激しく、慎重な工事になった」と振り返る。また、「防空壕が発見され、往時の苦労が忍ばれた」とも。再生を終えた家での生活をスタートさせた施主は、「狭小な土地で古い町家でしたが、こちらの希望をとり入れて頂き、とても明るく、お台所も洗い場も使い勝手がよくなりました」と話しているという。

■ 家の年齢  80年
■ 家のつくり 町家
■ 家の広さ  敷21坪 延26坪
■ 改修の形式 現地再生
■ 家族構成  大人2人

1 じゅらく壁を塗り直し、畳を新しくした1階の和室。ガラスの引き戸を採用することで、表通  りからの光が格子窓を通じてこの和室にまで届くようにされている。
2 通り庭には玄昌石タイルを貼りこみ、すっきり美しく生まれ変わった。
3 バリアフリーに配慮した玄関。左に見えるのは耐震向上のための耐力格子。
  奥にベンガラ格子が見える。 墨を混ぜたベンガラで塗装し、仕上げた表格子。
  町家がもつ美しい姿を再現した。
4 玄関を入ってすぐのミセの間。ガラスの建具を採用し、光が透けるように配慮。
5 京町家のもつ洗練された美しさを現代に再現。街に対して端正なプロポーションは、
  今の時代にはむしろ目新しい。
6 京指物の伝統的な意匠をとり入れた水屋収納(食器棚)。
  和紙壁紙との調和が美しい。


京都府京都市
TD HOUSE
建築設計=野村正樹
(株)ローバー都市建築事務所 075-451-5777
写真=(株)ローバー都市建築事務所
京西陣菓匠 宗禅

京西陣菓匠 宗禅

京西陣菓匠 宗禅

京西陣菓匠 宗禅

■ 古民家の食事処
■ 写真=宮前祥子
西陣の町家で、丁寧につくられた 手づくりのあられを味わう上技物あられ処
京西陣菓匠 宗禅

京都の伝統工芸のひとつ、西陣織で知られる街、西陣。 今も町家が多く残され、近年はそれらを改修して 暮らしたり、店を開いたりする人が 集まる街として人気を集めている。 そのなかのひとつ『菓匠 宗禅』は、 手づくりならではのあられを売る人気店だ。

西陣にある『菓匠 宗禅』は、大阪の老舗あられ店の4代目、山本佳明さんが“本物”のあられを多くの人に味わってもらいたいと8年前に独立してオープンさせた店である。西陣の「織り屋建て」といわれる町家を改修した店内は、町家本来のつくりを再現した空間で、「伝統を大切にしたい」という山本さんの要望を受けて、京都で数多くの町家の改修を手掛けているローバー都市建築事務所の野村正樹さんが再生させた。織り屋建ては、表通りに面して住居、奥に仕事をするための織り場があるという独特のつくりで、織り場は織り機を置くために天井が高くなっているのが特徴。山本さんは表側をあられを販売する店とし、奥に茶房を設けてできたてのあられを味わってもらえるよう、野村さんに依頼した。「あられってこんなにすごい、ということをお客様に知っていただくために茶房を併設したんです。あられとひと口に言っても、繊細な模様を施した上技物あられ、型抜きをした上物、四角い並物に分類されます。ことに上技物には伝統的な製法があり、その伝統を守り、おいしさを多くの方に知っていただきたい」と山本さんは話す。  茶房では、素材と製法にこだわったできたての味を提供している。それぞれのメニューには、あられ(おかき)との相性を考えたお茶が添えられ、おいしさをさらに引き立てる。「素材を厳選することはもちろん、生地づくりだけでも手間ひまかけて1週間から10日、長いもので2週間かかります」と山本さん。妥協を許さず、味を追求し続けることで、我々がもつあられの概念を超えた“本物”を生み出す。例えば「糸くり」と呼ばれる揚げあられは、驚くほどにふんわりと軽い味わいで、和三盆糖を混ぜた抹茶やきな粉が口の中ですぅっと溶け、もち米本来の甘みと溶け合う。米本来の甘みと香りを引き出しながら完成させた極上のあられをぜひ味わっていただきたい。



1 格子戸をくぐり、庭を通って茶房へと入る。茶房の入り口は南北の浄福寺通沿いにある。
2 東西の通り、寺之内通沿いの表玄関からショップへと入る。外壁は美しく塗り直され、
  ベンガラの格子戸、虫籠窓を復元。
3 建てられた当初の壁を美しく修復した茶房店内。
  壁が波打っているようになっているのは、西陣の織り屋建て独特のものだそうだ。
4 注文を受けてからつくり、できたての味を提供している。

天井が高いのは、西陣特有の織り屋建てのため。茶房はもとは織り機を置いた作業部屋で、今は吹き抜けにした開放感ある空間だ。


古民家の食事処
表から想像できない大空間が広がる西陣の織り屋建て。

1 しるこをしみ込ませ、きな粉・抹茶をふりかけた本しぼと和三盆を使った
  五色あられ卯槌を盛り合わせた本しぼと卯槌とお抹茶(730円)。
2 揚げたてのあられに和三盆と合わせたきな粉や抹茶などで包んだ
  糸くりと煎茶(840円)。
3 二種せんべいとほうじ茶(680円)。
  せんべいは新潟のコシヒカリを使用し、注文を受けてから焼き上げる。
  醤油をしみ込ませてしっとりと焼いたしぐれせんべい、秘伝醤油をつけて炙るように
  二度焼きしたあぶりせんべい、同じ生地ながら製法の違いによってその食感はまったく
  異なる。
4 .2階から吹き抜けになった茶房店内を見下ろす。将来はこの2階を個室の客席として
  使用したいと考え、現在は準備中とのこと。
5 .通り庭がショップと茶房をつなぐ。
6 軒下に、真ん中が空いたドーナツ型のあられ「糸くり」の生地が干されていた。
  ふんわりと軽くて繊細な食感を出すためにたどりついたのが、このカタチだそうだ。


DATA
菓匠 宗禅
●所在地  京都府京都市上京区寺之内浄福寺東角中猪熊町310-2
●TEL   075-417-6670
●営業時間 10:00〜18:00(茶房は〜17:00)
●定休日  月曜(祝日の場合は営業)、毎月6日
●アクセス 市バス今出川浄福寺から徒歩7分