産経新聞 2007年9月26日号



「伝統生かし次世代に継承」
戦災を免れた古都・京都には、豪商などが暮らした町家を始めとする建物が今も数多く残る。その数は約3万戸とも言われるが、戦後、市が古民家の保護よりも市街の開発に重点を置いたため、その多くは老朽化が進み、現在では約3割が放置されたままの状態という。こうしたなか、古い建造物を改装し、再利用する動きが活発になっている。

関西再発見
-京都の伝統的な建物といえば町家だが、古くから多彩な伝統工芸が発展し、職人たちが暮らした長屋も残っている。織物生産の一大拠点として平安期から発展してきた上京区の西陣。その一角の紋屋町にもかつて多くの長屋があり、職人たちが生活しながら織物作りに携わってきた。

紋屋町で今も残る長屋は、室町後期の弘治年間(1555〜1558年)、宮中に納める有職織物を取り仕切った「御寮織物司」に幕府から命じられた三上家の長屋のみ。この長屋も築130年で荒廃が進み、畳の腐食や建物の傾斜などがみられたが、一室を改装し研究所として利用しているのが、ローバー都市建築事務所だ。
 それまでコンクリートとトタン板で覆われていた長屋の坪庭に、改めてモミジやナンテンなどの木々を配し、石灯籠をポイントに作庭。玄関の白川砂や京唐紙貼りのふすまなど。伝統的な和の素材を生かしつつも、間接照明や家具を取り入れて、現代人の感覚にあう長屋へとリフォームした。

 同建築事務所は平成12年に設立。これまでに町家約50軒を改装し、民家や店舗、高齢者用居宅介護施設として再び世に送り出した。
 同事務所によると、専門家や一部の町家ファンの間にしかなかった町家保存の意識が広まったのは、町家ブームが到来し改装実例が増えたこの10年だという。
西陣では、専門家だけではなく、学生や僧侶ら地域住民も参加したボランティアの「町家倶楽部ネットワーク」が平成11年発足。町家を住宅や店舗などに利用したいと考える人と家主を結びつけ、街家の再利用を推進している。
 京都の町並みに欠かすことのできない町家。新しい姿で再生する動きは、着実に広がりを見せている。

京町家の再生
- 「京都で1200年育まれた伝統を次の世代へ残すことはわれわれの使命」。ローバー都市建築事務所の代表取締役、野村正樹さん(37)はこう話す。
 昭和40年代から50年代にかけて、数多くの町家が取り壊されたり、土壁や柱を隠すリフォームが行われ、野村さんはその光景を目の当たりにした。町も人も家も喜ぶ使い方ができないか。そう思ったのが、町家改装のきっかけという。

  古いものをそのままの姿で修復、保存することは伝統を継承する方法の一つだ。だが、周囲の環境が便利で快適になっていくなかで、町家だけが昔の機能のままでは、周囲から取り残されて生き残ることはできない。

  野村さんはそう考え、町家を民家として再生したり、店舗などに改装する際、畳を交換したり柱を補強するだけでなく、古くなったものを基本としながら、新しさを付け加えて再生することにこだわる。

  フローリングや床暖房、断熱材など、現代の利便性や機能、感覚を盛り込んでこそ、次世代へバトンタッチできる。「伝統は常に変化し続けて継承されてきたこれからも変わり続けていかなければ後世には残らない」(野村さん)(石坂太一)

築130年の三上家長屋。住居としてだけでなく、陶芸家と写真家のアトリエ、ハチミツ専門店などとしても利用されている=京都市上京区紋屋町 改装された長屋の一室。伝統的な坪庭と縁側、現代的な家具やフローリングが融合し、落ち着いた雰囲気を醸し出している。


Publishedへ