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INAXレポート

京町家を活かすまちづくり コラム

京町家再生と空間創生術 
野村 正樹


INAXレポート 京町家を活かすまちづくり コラム



INAXレポート 京町家を活かすまちづくり コラム
時代を超えて受け継がれた先人の知恵が、この町・西陣には息づいている。
そんな想いを抱きながら、生まれ育った西陣を中心に京町家の再生に
日々取り組んでいる。

通常、代表的な京町屋は、一般的に「表屋造」というスタイルで、建てられている。前面に配された、“みせ”と呼ばれる商業・応接スペースと、“おく”と呼ばれる居住スペースを内部の坪庭で分節し、かつ、通り庭という吹抜空間で有機的に各居室を結合することにより、通風や採光を確保する工夫がなされている。こうした、自然を積極的に感じる空間には、寒暖や雨風・光のコントラストを巧みに取り入れながら、気持ちよく生活するための人々の知恵の重なりが蓄積されている。また、光の変化や植栽の変化といった、自然との豊かなかかわりを常に感じながら、西陣織や京友禅の美しい色・柄等を創造する美意識が培われてきたともいわれている。これに対し、西陣地域の「織家建」は「表屋造」とは対照的に、“みせ”の間である工場スペースを通りから奥に、“おく”である居住スペースを前面に配しているのが特徴的である。通常、“みせ”は通りに面するものであるが、織機の音が、近隣や道路通行人の迷惑にならないようにといった町衆の配慮から、「織家建」が考案されたのである。

西陣地域の町家再生の人気の一つとして、この織機のおかれていた”おく”の工場スペースを自由に利用できるといった魅力が人気のひとつになっている。小さいものは5坪ぐらいから、大きいものは40坪ぐらいまで、以前ジャガード機を置くために定義された、高天井の大きな木造無柱空間は、現代において、その多様性から、創作活動をする若者を中心に人気を集めている。最近まで、眠っていた都市のストック資産としての工場スペース。必要なインフラとアイデアを挿入することにより、西陣地域の活性化の一助を担うまでになった。 私自身、アトリエを“おく”に構えているが、先人の知恵に学ぶことは多い。弊社アトリエ改装を例にあげて、具体的に説明してみたい。まず、改修計画を立てるにあたり、避けては通れないのが、構造面よりの考察である。一般的に町家は老朽化が進んでおり、平面計画と連動させて、耐震補強計画を進める必要がある。今回の改装では、無柱吹抜空間に3ヶ所の耐震フレームを挿入し、主に桁行方向の構造を補強する方策を試みた。又、改修計画を建てるにあたり、現行の建築基準法の枠組みの中で、適正に処理する必要がある。細部にわたる建築関連法規の理解は不可欠といってよいであろう。京町家に多く見られる弁柄格子や瓦屋根、虫籠窓といった要素をうまく活かすことも、京町家の再生を考える上では、重要となる。多くの場合、従来のリフォームにより、京町家本来の要素は隠されたり撤去されていることが多い。それをうまく見つけだし、現在的に引き出すこともポイントとなる。今回の場合は漆喰壁に着目し、空間を彩る無地のキャンパスとして再定義することにより、現代的に意味づけを行っている。そんな改修を施した、織工場スペースは、今では現代において忘れられている、大事な”こころ”を再発見するスペースとなっている。

1200年の歴史を育む街・京都には、先人の知恵を次代へ繋ぐ伝統の技が醸成されている。西陣地域における、京町家再生への取り組みも、変化のようでありながら、次代へ受け継ぐ私達のDNAなのである。すなわち、その時代の人や文化に合わせて、スタイルは常に改良され、それが伝統を継承していく。伝統とは変化をつなぎ続けることに他ならないのである。現在のスタイルにあわせて、“古い殻”の中から“新しい仕組み”を創造する町衆の叡智。そして人と”こころ”が暮らしあう。形を守るだけでなく、時代に生きた人が日々知恵を絞る。時の流れに合わせた変化を、積み重ねて、次代へ継承し続けるということこそが伝統であるといえるのではないだろうか。